G-X0MQHQND78

【わかりやすい】固定資産の減損について解説②〜減損検討に用いられる割引率の計算方法〜

M&A

今回は、固定資産の減損検討に用いられる「割引率」についてのポイントをわかりやすく解説してきますと思います。
前回では、固定資産の減損会計についての概要について解説しました。

今回はもう少し踏み込んだ内容である、減損会計にて使用する割引率について解説していきたいと思います。

解説する基準

・固定資産の減損に係る会計基準(企業会計審議会)
・固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第6号)

使用価値とは?

固定資産の減損の検討にあたり、「測定」のステップで使用価値の算定を行います。
そもそも使用価値とは何かについて説明していきたいと思います。

使用価値とは固定資産を使用することによって得られるキャッシュ(=収入)と使用後の処分によって得られるキャッシュ(=収入)の合計を割引現在価値にしたものです。会計基準には、以下のように記載されています。

・固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第6号)
31.使用価値は、資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値(減損会計基準 注解(注1)4. 参照)として、以下のように算定される。
⑴ 資産又は資産グループの継続的使用によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローは、第36項から第42項に基づいて算定する。
⑵ 資産又は資産グループの使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローは、将来時点の正味売却価額となるため、第29項に基づいて算定する。
⑶ ⑴及び⑵により算定された資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローは、第43項から第47項に基づいて算定された割引率によって、現在価値に割り引く

基準の言葉を簡単な言葉で言い換えてみると、

・継続的使用価値・・・その固定資産を継続的に使用して得られるキャッシュ(=収入)
・使用後の処分・・・継続使用した後に固定資産を処分(=売却)して得られるキャッシュ(=収入)
・将来キャッシュ・フローの現在価値・・・将来のキャッシュ(=収入)を現在の価値にて算定すること

つまり、使用価値とは

固定資産を継続的に使用して得られる収入と固定資産を売却して得られる収入を合計して現在の価値にして表してみましょう。ということです。

現在の価値にするとは「割引計算」を行うということです!次に割引計算とは?について解説していきます。

割引計算とは?

そもそも割引計算とは・・・?

上記の使用価値を理解するには、割引現在価値という会計上の考え方を理解する必要があります。
割引現在価値とはお金の価値は時間軸によって変化するという考え方からきています。

現在の1万円と1年後の1万円は同じ価値でしょうか?
この質問だと同じ価値だと思う人が多いかもしれません

では聞き方を変えてみましょう。
もしあなたが1万円をもらえるとしたら、「今すぐ」と「1年後」のどちらが良いでしょうか。
このの質問であれば「今すぐ」と答える人が多いのではないでしょうか。

同じ1万円であっても、1年後の1万円よりも今すぐもらえる1万円の方が価値があるということです。

今すぐ1万円をもらい、運用利回り年10%の投資を行なった場合、1年後には元手と合わせ11,000円となります。このようなことからも「今すぐ」の1万円の方が価値があるということがわかります。

運用利回り年10%となるような投資はなかなかないですが、皆さんは銀行にお金を預けて利子を銀行からもらっていますよね?お金には時間とともに価値が増加していくという考え方があり、これが割引現在価値という考え方になります。「時は金なり」ですね。

固定資産の減損の「測定」を行う上で、使用価値を算定する必要があり、将来の事業計画をもとに固定資産を使用することによって次の1年間後、2年後、3年後・・・10年後・・・20年後など将来、いくらキャッシュ(=収入)が得られるか見積もりを行なっていきます。
この将来キャッシュ・フローは「将来のお金」であるため、「現在の価値」に割引くための「割引率」が必要となります。

では、この「割引率」はどうやって算定するのか、次から説明していきます!

割引率の算定について

この割引率の算定について、基準では以下の通り記載されています(難しいので基準は読み飛ばして大丈夫です)。

・固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第6号)

使用価値の算定に際して用いられる割引率
43.減損損失の測定にあたり、使用価値を算定する際に用いられる割引率は、減損損失の測定時点の割引率を用い(第124項参照)、原則として、翌期以降の会計期間においても同一の方法により算定される。また、将来キャッシュ・フローが税引前の数値であることに対応して、割引率も税引前の数値を用いる必要がある(減損会計意見書 四 2. ⑸参照)。
45.資産又は資産グループに係る将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクについて、将来キャッシュ・フローの見積りに反映されていない場合、使用価値の算定に際して用いられる割引率は、貨幣の時間価値と将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したもの(減損会計基準 二 5.参照)であり、以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなる(第124項から第127項参照、[設例6])。
⑴ 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを反映した収益率。企業は、内部管理目的の経営資料や使用計画等、企業が用いている内部の情報に基づき、当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する。
⑵ 当該企業に要求される資本コスト。資本コストは、借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である。
⑶ 当該資産又は資産グループに類似した資産又は資産グループに固有のリスクを反映した市場平均と考えられる合理的な収益率。
⑷ 当該資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積られる利率。

割引率について基準上は、上記のように記載されており、実務上、一般的に「WACC」と呼ばれる加重平均資本コストが用いられています。WACCについての詳細はここでは割愛しますが、調べてもらったらたくさん出てきますのでチェックしてみてください。

単純に説明すると、株主資本コストと負債コストをそれぞれの時価で加重平均を行なったコスト(利回り)になります。企業にはお金を出資している当事者として株主と債権者がいますよね。この2者が期待する利回りを表したコストがWACCとなります。

WACCの式は以下の通りです。

(加重平均資本コスト)

WACC=負債コスト×(1-税率)×{D/(D+E)} + 自己資本コスト×{D/(D+E)E}

(D:負債額(時価)、E:株主資本額(時価)

負債コストは一般的に借入におけるコスト(借入利子率)、自己資本コストはCAPMによる算定が一般的に使われています。こちらも調べればわかりやすい解説がありますのでそちらをチェックしてみてください。

税引前割引率とWACCの関係について

ここからが今回の記事の本題となります。

基準上に記載されている割引率の算定方法と一般的に割引率として使用されるWACCには矛盾が生じてしまっているのがわかりましたでしょうか・・・
基準上は割引率について「税引前」の数値を用いると記載されている一方で、WACCとは税引後を前提としている割引率なのです。

使用価値の算定にあたり、WACCでの割引率は使用できないのでしょうか?上記の矛盾を解消するための方法としては次の2通りが考えられます。

・WACCを税引前に置き換える
・将来キャッシュ・フローを税引後に置き換え(そのままの)WACCにて割引く

【WACCを税引前の数値に置き換える】
WACCにおける自己資本コストについて(1-実効税率)で割り返して算定する方法です。(適用指針の設例6にも示されているやり方となっています。)

しかしIFRS(国際財務報告基準書)において、「税引後の割引率を標準税率で割り戻されたものが適切な税引前の割引率と等しくなる場合は,限定的である」と記載されております。

この方法では,資産の会計上の帳簿価額と税務上の簿価の間に生じる一時差異や税金の将来キャッシュ・フローが発生する時期を反映させることができないためです。

ただ、日本基準では設例6にも記載されている方法であり、間違いというわけではなさそうです。
IFRS基準における算定の場合には使わないほうが良いでしょう。

 

【将来キャッシュ・フローを税引後に置き換え、WACCにて割引く】
税引後の将来キャッシュ・フローを税引後の割引率で算定する方法です。
使用価値の算定において、「税引前の将来キャッシュ・フローを税引前の割引率で計算した結果」と「税引後の将来キャッシュ・フローを税引後の割引率で計算した結果」は同じになることから、将来のキャッシュ・フローについても税引後にして計算しまうというものです。
基準上はどちらも税引前での計算が求められていますが、結果が同じであれば税引後を使用しても問題ないという考え方ですね。

こちらのほうが合理的かなと個人的には思いますが、日本基準での算定の場合では前者のやり方でも問題なく、IFRSの場合は後者のやり方で算定することをお勧めします!

実務上では、そもそもこの論点に気づいていないケースも多々ある印象ですが、後者にて算定する方法が多いのではないかと思います。

個別のご相談はコメント欄、質問箱(https://peing.net/ja/kaikei_sodan)にお願いします!

ではでは!

コメント

タイトルとURLをコピーしました