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とある会計士の独立開業噺〜令和3年度論文式試験を解いてみた(企業法①)完全子会社株式の譲渡

開業

こんにちは!令和3年度の論文式試験を受験された皆様、お疲れ様でした。長かった受験生活がひと段落して一息つけてますでしょうか。コロナで色々と制限されてますが、頑張った自分にご褒美をあげて下さいね。

本日は論文式試験の企業法の第一問、完全子会社株式の譲渡について解説していきます(あくまで私見なので、受験生の方におかれましては受験予備校の解答速報もご確認下さい)。

監査論や財務諸表論についても別記事でアップしていますので、興味のある方は覗いていって頂けると嬉しいです!

 

企業法第一問 完全子会社株式の譲渡の解答 

第一問

甲株式会社(以下,「甲会社」という。)は,和菓子の製造販売を行う乙株式会社(以下,「乙会社」とい う。)と,料亭を営む丙株式会社(以下,「丙会社」という。)を完全子会社とする純粋持株会社である。 これら3社はいずれも,取締役会設置会社でも種類株式発行会社でもない。これら3社の定款には, 問題文で明示されている以外に,会社法の規定と異なる別段の定めは設けられていない。

甲会社の発行済株式総数は100株であり,Aが40株,Aの配偶者であるBが30株,AとBの子であるCとDがそれぞれ20株,10株を保有している。甲会社の取締役はA,B,C,Dの4人であり,いずれもその残存任期は 5 年ほどである。甲会社は代表取締役を定めていない。甲会社の資産は乙会社の株式と丙会社の株式のみであり,これらの帳簿価額が甲会社の総資産額に占める割合はそれぞれ2分の1である。

【問題1】

令和2年4 月 15 日,Aは,他の株主に知らせることなく,甲会社が保有している乙会社の株式の全てを丁株式会社( 以 下 ,「丁会社」という。)に譲渡した( 以 下 ,「 本件譲渡」という。)。本件譲渡の効力について論じなさい。

(解答)

本問の場合、甲会社が保有している乙会社の株式の譲渡は以下の要件を満たすことから、株主総会の特別決議が必要です。

・子会社株式の全部である

・譲渡株式の帳簿価額が甲会社の総資産額の五分の一を超えている

・効力発生日において、甲会社が保有する乙会社株式の議決権は議決権総数の過半数を下回る

従って、Aが他の株主に知らせることなく行なった株式譲渡の効力は発生しないものと考えられます。

 

根拠条文は会社法第309条2項と第467条1項となります。

会社法第309条2項

次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。

(中略)

十一 第6章から第8章までの規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会

会社法第467条 1項

株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに、株主総会の決議によって当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。

(中略)

ニの二 

その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡(次のいずれにも該当する場合における譲渡に限る。)

イ 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えるとき。

ロ 当該株式会社が、効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しない結果となるとき。

第467条は会社法の第7章の条文ですので、第309条2項で記載されている「第6章から第8章までの規定」に該当することなります。

企業法第一問 完全子会社株式の譲渡の解説

会社が株式の譲渡を行う際、原則として株主総会決議は不要ですが、以下に全て該当する場合には株主総会特別決議が必要となります。

①親会社が子会社の株式を譲渡する場合

②譲渡する株式の帳簿価額が譲渡会社の総資産額の20%を超えている場合

③親会社が子会社株式を譲渡した結果、議決権割合が総議決権の50%未満まで減少する場合

要は原則は不要だが、親会社が重要な子会社株式を譲渡する場合には特別決議が必要ということですね。重要な子会社株式の譲渡となると会社や株主に与える影響も大きくなるため、より慎重な意思決定が求められるのだと思います。

実務を経験すると子会社株式を譲渡するのはさすがに特別決議まで必要だろうな、と腹落ちするのですが、実務経験のない受験生の方はどの程度の取引だったら特別決議(特殊決議)が求められるのかなかなかイメージしづらいですよね。ただだ、株主総会決議は短答式、論文式ともに非常によく目にする論点ですので、309条は早いうちに押さえておくと良いと思います。単純に要件を暗記していくのではなく、自分が株主になったら、と考えながら勉強していくと頭に入ってきやすいかもしれません。

 

まとめ

 如何でしたでしょうか。企業法第一問は割とベーシックな論点が出てきたなという印象でしたね。結論を誤らず、参照する条文を正確に書くことが出来れば高得点が取れると思いますが、外してしまうとかなり痛いと思います。

 実務の中で株主総会の特別決議に関する知識ってどれくらい活かせるの?と疑問に思う方もいると思いますが、大手監査法人に勤めていればこの問題のように特別決議をせずに株式譲渡してしまうケースに当たることはまず無いですね。

 大手監査法人の場合、クライアント企業もそれなりの規模の会社が多いですし、法務周りもしっかりされている会社さんばかりです。私自身も担当クライアントの株主総会議事録を何度か拝見しましたが、普通決議なのか、特別決議なのかを意識したことは全くありませんでしたね。笑

 ただ、出来たばかりで法務関連の整備が追いついていない会社や親族で経営している小規模の会社さんであればこの問題のようなケースが起こり得ると思います。実務をし始めていつ必要になるかわからない知識とはなりますが、頭の片隅には入れておくようにしましょう!私もいつか独立して株式会社を作る日が来たら、忘れずに特別決議を開けるようにしようと思います。

ご質問があれば質問箱(https://peing.net/ja/kaikei_sodan)までよろしくお願いします!

それでは、さようなら。

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