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とある会計士の独立開業噺〜令和3年度論文式試験を解いてみた(監査論①)KAMの決定プロセス

開業

こんにちは。

8月20日〜22日までの3日間、公認会計士試験論文式を受験された皆さん、本当にお疲れ様でした。本日は私も数年前に受けた論文式試験について、実際の監査法人勤務を踏まえた上で解説をしていこうと思います(あくまで私見なので、受験生の方におかれましては受験予備校の解答速報もご確認下さい)。

公認会計士試験について簡単に説明しますと、試験は1次がマークシート方式の短答式(年2回)、2次が論述形式の論文式(年1回)となっています。論文式まで合格すると晴れて公認会計士試験合格者となり監査法人で勤務することが可能となります(一部の監査法人では短答式合格者が受験を続けながら勤務することが出来る制度もあります)。

数年前に私が受験した頃は短答式の合格率が5〜10%、論文式の合格率が30%程度となっていました。論文式試験よりも短答式試験を通るのに苦労した苦い経験があります・・・

 

昨日まで行われていた論文式試験は、会計学、監査論、企業法、租税法、選択科目の5科目で構成されていますが、本日はその内の「監査論」第一問の問題1について、解説していきます!

なお、論文式試験の問題は公認会計士・監査審査会のホームページでご覧いただけますよ。

令和3年公認会計士試験論文式試験の試験問題及び答案用紙について

 

問題

第一問は監査上の主要な検討事項(以下、KAM)に関する問題でした。問題1と問題2に分かれており、それぞれについて2〜3問の小問が出題されています。

【問題1】監査上の主要な検討事項にかかる監査人の判断及び関連するその他の手続について,【資料】及び【状況1】を踏まえ,以下の問に答えなさい。

※資料と状況の内容は要約すると以下となります。

【資料】
①上場会社X社の経営者は,エネルギー事業部門に関して,2つの事業シナリオを検討。シナリオAは,これまでの実績に基づく成長率を前提としたもの、一方,シナリオBは,将来の社会・環境要因による規制強化を前提とした保守的な想定となっている。

②経営者は,シナリオAを採用し,エネルギー事業部門の資産に減損の兆候があると判断し,減損の認識を判定したが,減損処理は不要と判断した。 回収可能価額の算定に用いた主要な前提条件は,重要な会計上の見積り項目とし て,会計基準に従って財務諸表に注記されている。

③経営者がシナリオBに基づく事業計画を採用した場合には,減損損失の認識が必要となる。監査人は,X社の監査において,監査上の主要な検討事項を決定するに当たり,シナリオBがエネルギー事業部門の資産の減損に係る監査判断に重要な影響を与えていると判断した。

【資料】
①上場会社X社の経営者は,エネルギー事業部門に関して,2つの事業シナリオを検討。シナリオAは,これまでの実績に基づく成長率を前提としたもの、一方,シナリオBは,将来の社会・環境要因による規制強化を前提とした保守的な想定となっている。

②経営者は,シナリオAを採用し,エネルギー事業部門の資産に減損の兆候があると判断し,減損の認識を判定したが,減損処理は不要と判断した。 回収可能価額の算定に用いた主要な前提条件は,重要な会計上の見積り項目とし て,会計基準に従って財務諸表に注記されている。

③経営者がシナリオBに基づく事業計画を採用した場合には,減損損失の認識が必要となる。監査人は,X社の監査において,監査上の主要な検討事項を決定するに当たり,シナリオBがエネルギー事業部門の資産の減損に係る監査判断に重要な影響を与えていると判断した。

【状況1】
①X社のエネルギー事業部門の資産の帳簿価額は適正に表示されている。

②ただし,エネルギー事業部門の減損の認識にかかる見積りの不確実性は高い。経営環境の悪化の時期や規模は不確実であるため,減損損失の認識時期と金額は経営者の判断に大きく左右される。

問1
監査人は,「エネルギー事業部門の減損の認識」を監査上の主要な検討事項として監査報告書に記載し,その説明においてシナリオBに言及した。この場合に,監査人は,監査上の主要な検討事項をどのように決定したのか,監査上の主要な検討事項の決定プロセスを3つに区分して,その内容を具体的に説明しなさい。

解説

(解説)
本問のポイントはKAMの決定プロセスを理解しているか、ですね。KAMの決定プロセスは以下3つに区分されます。

①監査の過程で監査役等と協議した事項
KAMは公認会計士の独断により決定されるものではなく、監査役等との協議を重ねた上で決定していきます。期初の監査計画の説明のタイミングからコミュニケーションを開始し、KAMの候補を伝達して協議をしたり、監査意見の表明までにどの時期にKAMのコミュニケーションを実施するかをあらかじめ決めておき、監査の進行に伴いコミュニケーションを重ね、監査の最終段階で決定を行います。監査役とのコミュニケーション頻度は会社規模によっても異なると思いますが、概ね四半期ごとと期末監査期間の前後に実施するイメージです。

 

②監査上特に注意を払った事項
監査役等との協議を行ったKAM候補より、監査上特に注意を払った事項を絞り込んでいきます。特に注意を払った事項の決定に当たっては、以下を考慮することが必要となります。

・特別な検討を必要とするリスク又は重要な虚偽表示のリスクが高いと評価された領域

⇨実務では収益認識や固定資産・のれんの減損といった項目が該当するケースが多いですが、本問の「エネルギー事業の減損」も特別な検討を必要とするリスク又は重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域に当てはめることが出来ると思います。

・見積もりの不確実性が高いと識別された会計上の見積もりを含む、経営者の重要な判断を伴う財務諸表の領域に関連する監査人の重要な判断

⇨本問ではシナリオAとシナリオBの二つのシナリオが想定されており、見積もりの不確実性が高い状況であると言えます。仮に、シナリオBを選択した場合には減損の計上が必要となるため、シナリオBがエネルギー事業部門の資産の減損に係る監査判断に重要な影響を与えていると判断されます。

・当年度において発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響

⇨本問においては「エネルギー事業」において減損の兆候が識別されており、減損の認識及び測定について経営者と監査人との間で意見が分かれた場合、監査に与える影響が大きくなることが想定されます。

 

③特に重要な事項
特に重要であるかどうかは、当該監査における相対的な重要性に基づいて決定します。監査には重要性の基準値が設けられますが、量的な観点から当該基準値を勘案し、さらに質的な観点からも考慮を行った結果、「エネルギー事業」の減損損失に重要性があれば、特に重要な事項となります。

まとめ

如何でしたでしょうか。問題の内容も解説の内容もなかなか難しいですよね。

KAMの制度は2021年3月期から適用されているため、3月決算の上場クライアントを担当していないと現役の会計士でも馴染みのない論点です。

実際に私も問題を見て、難易度の高さに驚きました・・・

監査経験のない受験生の方がこの手の問題を解いていくのは大変だったんだろうなと思います(私も受験時代、監査論の問題はテキストで抑えた最低限のキーワードと想像力を駆使して必死に文章を綴っていた記憶しかありません)。

私見にはなりますが、この問題ではなかなか差がつきづらいのではないでしょうか。

 

受験生の皆さん、来月には各予備校にて解答・解説が出されると思いますが、それまでの間は試験のことは少し忘れてリフレッシュしてくださいね!タフな試験だったと思いますが、本当にお疲れ様でした。ちなみに私は非常に気にしいな性格なので、合格発表の時まで解答・解説は一切見ず、試験を受けたことを忘却していました。笑

こちらの記事についても是非チェックしてみて下さい!

それでは、さようなら。

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