今回は、前回に引き続き、税効果会計について、解説をしていきたいと思います。
前回は、繰延税金資産の回収可能性とは?について解説を行いました。
そちらの記事についても是非チェックしてみて下さい!
今回は、税効果における繰延税金資産のスケジューリング、会社分類判定について解説していきます。
繰延税金資産のスケジューリングとは?
前回の記事では、繰延税金資産の回収可能性(将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうか)については、次の⑴から⑶に基づいて、判断していくことを説明致しました。
(1) 収益力(に基づく一時差異等加減算前課税所得)
(2) タックス・プランニング(に基づく一時差異等加減算前課税所得)
(3) 将来加算一時差異
(1)〜(3)を判断するために必要な手順が「スケジューリング」となります。
「スケジューリング」とは 、直訳では「予定や日程を組むこと」 という意味になりますが、税効果会計上は、
「一時差異(財務会計上と税務会計上のズレ)が解消する時期を計画すること」という意味になります。
いくら収益力やタックス・プランニング、将来加算一時差異が、将来十分に見込まれることがなんとなく分かっていたとしても、一時差異がいつ解消されるのかを計画できていないと、税効果会計の趣旨である、「財務会計と税務会計のズレを調整し、税金費用を適切に期間配分する」ことを厳密に実行することはできません。
そのため、一時差異が「いつ」、「いくら」解消する見込みであるのかを計画することが必要なのです。
スケジューリングの一般例
一時差異のスケジューリングについてどのように行うか解説していきます。
基本的には一時差異は、税務上いつ損金に算入されるのか、益金に算入されるのかで考えていきます。
一時差異の実際の例として、「賞与引当金」、「減価償却」でみてみましょう。
3月決算の会社における設例
・賞与引当金の繰入超過額
→ 財務会計:労働した期間に費用計上、税務会計:支払の時期に損金計上
2021年1月〜6月の期間にわたって労働した分の賞与1,500を2021年7月に支給する場合、2021年3月末時点では、「財務会計」上は2021年1月〜3月に該当する分の賞与引当金(750)を計上します。しかし、「税務会計」上は、支給する時にしか損金計上は認めらず、2021年3月末時点では支給を行なっていないため、一時差異となります。
【賞与引当金のスケジューリング】
税務会計上は、支払いを行なった時期に損金算入されるため、上記の場合のスケジューリングは2021年7月に賞与引当金の一時差異は解消されるとスケジューリングされます。
財務会計 | 税務会計 | 一時差異 | 解消時期 | |
2021年度 (2021年3月末) | 750 | ー | 750 | ー |
2022年度 (2022年3月末) | 750 | 1,500 | ー | 750 |
・減価償却費の限度超過額
→ 財務会計:経済的耐用年数にわたり費用計上、税務:法定耐用年数にわたり損金計上
2021年4月に1,000の固定資産について取得し、財務会計上、耐用年数2年としたものの、税務会計上の法定耐用年数は5年であった場合、1年間の減価償却費は財務会計上500(=1,000/2年)となるが、税務会計上は200(=1,000/5年)となり、この差300が1年間の一時差異となります。
【減価償却費のスケジューリング】
税務会計上は、法定耐用年数(5年)で損金算入されるため、以下のスケジューリングとなります。
財務会計 | 税務会計 | 一時差異 | 解消時期 | |
2021年3月末 | 500 | 200 | 300 | ー |
2022年3月末 | 500 | 200 | 300 | ー |
2023年3月末 | 200 | 200 | ||
2024年3月末 | 200 | 200 | ||
2025年3月末 | 200 | 200 |
2021年3月末、2022年3月末で生じた一時差異合計600について、税務会計上の損金算入額200/年ずつ、3年間(2023年3月末〜2025年3月末)にかけて解消していくスケジューリングとなります。
スケジューリング不能な一時差異
先ほどの設例では、スケジューリングができる一時差異について解説しましたが、全ての一時差異がスケジューリングできるわけではありません。
投資有価証券の減損損失や固定資産における土地の減損損失は、翌期以降に当該投資有価証券や当該固定資産の売却に係る意思決定または実施計画等がない限り、税務上の損金算入時期が不明なため、スケジューリング不能な一時差異となります。
また貸倒引当金について、将来発生が見込まれる損失を見積ったものであり、その損失の発生時期を個別に特定し、スケジューリングすることが実務上困難なものではありますが、過去の税務上の損金の算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等によりスケジューリングが行われている限り、スケジューリング不能な一時差異とは取り扱わないと会計基準上、記載されています。
一般貸倒引当金のように、将来の合理的な予測を加味した方法にて算定している場合にはスケジューリング可能と判断されると理解できますが、判断については難しいところでもあるため慎重に検討する必要があります。
会社分類について
ここまで繰延税金資産の回収可能性(将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうか)について、
(1)収益力、(2)タックス・プランニング、(3)将来加算一時差異に基づいて判断すること、一時差異の解消時期をスケジューリングしていくことを解説していきました。
実務的には、繰延税金資産の回収可能性を判断するために、「将来の収益力に基づく課税所得」を判断することが大事となってきます。将来の収益力(=税金を減額させるだけの十分な課税所得)が見込まれるのかについては、”将来の見積り”となることから、判断するための一定の指標がなければ、会社ごとに好き勝手な計画を作成し、繰延税金資産を計上することとなってしまうため、将来の収益力を判断するための一定の指標が基準には設けられています。
その一定の指標が会社分類となり、分類1〜分類5まで会社に分類する必要があります。ここでは概要を記載しますので、詳細は基準にて確認するか、コメント欄までご質問頂ければと思います。
会社分類 | 要件 |
分類1 | 次の要件をいずれも満たす企業 ⑴ 過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている。 ⑵ 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。 |
分類2 | 次の要件をいずれも満たす企業 ⑴ 過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。 ⑵ 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。 ⑶ 過去(3年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。 |
分類3 | 次の要件をいずれも満たす企業 ⑴ 過去(3年)及び当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している。 ⑵ 過去(3年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。 |
分類4 | 次のいずれかの要件を満たし、かつ、翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業 ⑴ 過去(3年)又は当期において、重要な税務上の欠損金が生じている。 ⑵ 過去(3年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある。 ⑶ 当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる。 |
分類5 | 次の要件をいずれも満たす企業 ⑴ 過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、重要な税務上の欠損金が生じている。 ⑵ 翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる。 |
将来減算一時差異が税金を減額する効果を有しているのか(繰延税金資産の計上)の判断を行うために、過去の業績や将来の経営環境の見込みから、会社を1〜5に分類するのが会社分類となります。
会社分類1〜5によって計上できる繰延税金資産の範囲が異なってきます。
会社分類 | 計上できる繰延税金資産の範囲 |
分類1 | 原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする |
分類2 | 一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする |
分類3 | 将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする |
分類4 | 翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする |
分類5 | 原則として、繰延税金資産の回収可能性はないものとする |
会計基準において、将来過去の業績や将来の経営環境の見込みを基に、会社を1〜5に分類し、その会社分類に基づき、計上できる繰延税金資産の範囲を明確にすることで、各社の恣意性をなるべく排除することができるようになっているのです。
まとめ
いかがだったでしょうか。今回はスケジューリングとは? 会社分類とは?について解説しました。
今回の内容をまとめると以下の通りです。
・スケジューリングとは、「一時差異(財務会計上と税務会計上のズレ)が解消する時期を計画すること」
・スケジューリングは、税務上の損金算入時期がいつなのかで把握することが可能
・スケジューリング不能な一時差異もある
・将来の収益力判断のために、会社を1〜5に分類する必要があり、会社分類1〜5によって、計上できる繰延税金資産の範囲が異なる
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