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【わかりやすく!】退職給付会計の概要を解説②〜年金資産の計上・数理計算上の差異について

会計

みなさん、こんにちは。
今回は、前回解説できなかった「退職給付会計」の年金資産、未認識項目について解説していきたいと思います!
前回の退職給付会計の概要①をまだ見れていない方は是非チェックしてみてくださいね!

年金資産について

「年金資産」とは
特定の退職給付制度のために、その制度について企業と従業員との契約(退職金規程等)等に基づき積み立てられた、次のすべてを満たす特定の資産のことを言います。

・退職給付以外に使用できないこと
・事業主及び事業主の債権者から法的に分離されていること
・積立超過分を除き、事業主への返還、事業主からの解約・目的外の払出し等が禁止されていること
・資産を事業主の資産と交換できないこと

要するに退職給付専用の積立資産ということです。

年金資産の額は、期末における時価により計算します。
(時価とは、公正な評価額のことをいい、金融商品については、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格のこと)

私が監査法人時代に行っていた年金資産の評価に対する手続は、確認手続といって、年金資産を預けている信託会社や生命保険会社に確認状を送付し、期末における時価を回答してもらうということを行っていました。複雑な計算を会社側で行うケースはほとんどないので、算定というより預け先への確認という感じです。

貸借対照表(BS)への計上について

貸借対照表に計上する退職給付引当金は、退職給付債務からこの年金資産(退職給付専用の積立資産)を控除した金額にて計上します。退職給付債務の算定については前回の記事を参考にしてみて下さい。

損益計算書(PL)への計上について

前回の記事で、損益計算書(PL)に計上する退職給付費用は、勤務費用と利息費用の合計と説明しました。
しかし、年金資産がある場合、この合計額に「期待運用収益」を控除することとなります。

退職給付費用= 勤務費用 + 利息費用 ー 期待運用収益

「期待運用収益」とは、年金資産の運用により生じると合理的に期待される計算上の収益をいいます。
年金資産を運用して得られると期待できる収益のことで、実際の運用益ではなく、期待できる収益という点がポイントです。なぜ実際の運用益ではなく期待なのかについては後述する数理計算上の差異について解説します。

期待運用収益の算定方法
期待運用収益は、期首の年金資産の額に合理的に期待される収益率(長期期待運用収益率)を乗じて計算します。

期待運用収益= 期首の年金資産 × 長期期待運用収益率

数理計算上の差異について

それではここから、「退職給付会計」がさらにややこしくなる話をしていきます。

それが、数理計算上の差異と過去勤務費用です。

前回の記事と今回の年金資産についてまではしっかり理解できましたでしょうか。
この数理計算上の差異と過去勤務費用について理解できれば退職給付会計の概要についてはばっちりです!

まずは数理計算上の差異から解説していきます!定義からみてみましょう

・数理計算上の差異とは
年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更等により発生した差異のことをいいます。なお、このうち当期純利益を構成する項目として費用処理(費用の減額処理又は費用を超過して減額した場合の利益処理を含む。以下同じ。)されていないものを「未認識数理計算上の差異」いいます。

う〜ん、難しいですね。
数理計算上の差異は、以下の3つ差異の総称です。

① 年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異
② 退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異
③ 見積数値の変更等により発生した差異

①、②の差異は、「当期1年分の見積数値と実績との差異」であり、③の差異は、「当期末以降の将来に関する見積数値(計算基礎)の変更による差異」という2種類の差異要因があります。

では、まず「当期1年分の見積数値と実績との差異」について
見積数値と実績との差異がそもそも生じる理由としては、退職給付債務や年金資産は、期首時点で期末の予定額を計算するためです。当期の費用となる勤務費用、利息費用は期首に算定を行いますが、期末における退職給付債務の算定を行った結果差額(見積と実績の差)が発生します。以下のようなイメージです。
期末の退職給付債務の算定は勤務費用、利息費用の積み重ねで算定していないところがポイントです。
期末の退職給付債務の算定はあくまで将来の退職給付見込額を見積り、当期までに発生している額を割引いて算定します。

「当期末以降の将来に関する見積数値(計算基礎)の変更による差異」について
この差異が生じる理由は、退職給付債務の見積計算に用いる予定脱退率や予定昇給率、年金資産の見積計算に用いる長期期待運用収益率などの見積数値について、あくまで見積のため、期中で変更が生じる場合があります。この変更を行った場合に生じる差異となっています。

ここでは数理計算上の差異とは?から、数理計算上の差異が発生してしまう要因について解説しました。
次に、過去勤務費用ついて解説していきます。

過去勤務費用について

過去勤務費用について解説していきます。定義からみてみましょう!

・過去勤務費用とは
退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給付債務の増加又は減少部分をいいます。なお、このうち当期純利益を構成する項目として費用処理されていないものを「未認識過去勤務費用」といいます。

要するに退職金規程等を改訂したことに伴い生じる差額です。
会社の退職金規程には退職者に支払う給付水準が記載されており、これが変更された場合にはもちろん退職給付債務の額も変更しますよね?このような改訂前の退職給付債務と改訂後の退職給付債務の改訂時点における差額のことを「過去勤務費用」と呼んでいます。

数理計算上の差異は、見積と実績の差であったことから期末に生じていましたが、過去勤務費用は期首に生じるケースが多いと思います。これは退職金規程の改訂は期首から適用されるケースがほとんどのためです。

数理計算上の差異、過去勤務費用の会計処理

数理計算上の差異、過去勤務費用の会計処理について解説していきます。

【数理計算上の差異の会計処理】
数理計算上の差異は、原則として各期の発生額について、予想される退職時から現在までの平均的な期間(以下「平均残存勤務期間」という。)以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理します(※1)(※2)。

(※1) 数理計算上の差異については、未認識数理計算上の差異の残高の一定割合を費用処理する方法によることができる。この場合の一定割合は、数理計算上の差異の発生額が平均残存勤務期間以内に概ね費用処理される割合としなければならない。数理計算上の差異については、当期の発生額を翌期から費用処理する方法を用いることができる。
(※2) 割引率等の計算基礎に重要な変動が生じていない場合には、これを見直さないことができる。

数理計算上の差異についての処理は、平均残存勤務期間以内の一定の年数で費用処理を行うため、以下の年数で費用処理されることが認められています。
①平均残存勤務期間まで
②発生年度に一括償却
③平均残存勤務期間以内の一定の期間

平均残存勤務期間とは
在籍する従業員が貸借対照表日から退職するまでの平均勤務期間です。原則として、退職率(第26項参照)と死亡率(第27項参照)を加味した年金数理計算上の脱退残存表を用いて算定します(第72項参照)が、標準的な退職年齢から貸借対照表日現在の平均年齢を控除して算定することもできます。標準的な退職年齢は、定年年齢、退職給付算定上の終了年齢及び退職者の平均年齢等、実態に即した年齢を用います。
(平均残存勤務期間は原則として毎年度末に算定しますが、従業員の退職状況に大きな変化が見られない場合は、直近時点で算定した平均残存勤務期間を用いることもできるとされています。大きな変化が見られる場合には、見直しの要否を行う必要があります)。

費用処理を行う期間について平均残存勤務期間以内の一定の年数とされている理由は、数理計算上の差異は、当期1年分の見積と実績の差異でもあり、期末以降の将来に対する見積と実績の差異でもありました。

そのため従業員が退職するまでの「平均勤務期間以内の一定の期間」で費用処理することが原則とされており、この方法を「定額法」と呼んでします。上記(※1)の処理は「定率法」と呼ばれるもので(容認)規定によるものです。

【過去勤務費用の会計処理】
過去勤務費用についての処理も、基本的に「数理計算上の差異」の処理方法と同様になります。
しかし、過去勤務費用は、退職金規程等の改訂による差異であり、頻繁に発生するものではないため、発生年度別に一定の年数にわたって定額法による費用処理を行うことが望ましいとされています。

未認識項目(「未認識数理計算上の差異」と「未認識過去勤務費用」)

今までの解説でも少し出てきましたが、未認識項目(「未認識数理計算上の差異」と「未認識過去勤務費用」)について解説します。
先の目次では、「数理計算上の差異」と「過去勤務費用」の会計処理について、どちらも平均残存勤務期間以内の一定の年数によって費用処理されることを解説しました。

この「数理計算上の差異」と「過去勤務費用」について、当期純利益を構成する項目として費用処理されていないものを「未認識数理計算上の差異」、「未認識過去勤務費用」としてその他の包括利益で認識した上で、純資産の部のその他の包括利益累計額に計上しますが、これは連結財務諸表上の場合であり、個別財務諸表上は計上されません。
個別財務諸表上では、未認識項目について純資産の部に計上されず、「退職給付引当金」算定の構成要素となります。

退職給付引当金 = 退職給付債務 ー 年金資産 (±) 未認識項目

この未認識項目の会計処理は個別財務諸表上と連結財務諸表上で異なる点がポイントです。

ここで全体の構成を図にまとめると以下のようなイメージとなります(以下のイメージは、個別財務諸表上の場合です)

小規模企業における簡便な方法

ここまでなかなか複雑な退職給付会計について解説してきましたが、小規模企業においては簡便な方法が認められています。
従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合又は退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等の簡便な方法を用いて、退職給付に係る負債及び退職給付費用を計算することができます。

これは原則として従業員数300人未満の企業が対象となりますが、従業員数が300人以上の企業であっても年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより、原則法による計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には、簡便法によることができます。なお、この場合の従業員数とは退職給付債務の計算対象となる従業員数を意味し、複数の退職給付制度を有する事業主にあっては制度ごとに判断します。

まとめ

・年金資産とは、特定の退職給付制度のために、企業と従業員との契約(退職金規程等)等に基づき積み立てられた、特定の資産のこと

・「期待運用収益」とは、年金資産の運用により生じると合理的に期待される計算上の収益をいい、期首の年金資産の額に合理的に期待される収益率(長期期待運用収益率)を乗じて計算する

・「数理計算上の差異」とは見積と実績の差異、「過去勤務費用」とは退職金規定改訂前との改訂後の退職給付債務の差異

・「数理計算上の差異」、「過去勤務費用」は、平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理する

・「数理計算上の差異」と「過去勤務費用」について、当期純利益を構成する項目として費用処理されていないものを「未認識数理計算上の差異」、「未認識過去勤務費用」という

・小規模企業(原則従業員数300人未満)は、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等の簡便な方法を用いて、退職給付に係る負債及び退職給付費用を計算することができます

いかがだったでしょうか。
非常に難しかったと思いますが、退職給付会計の概要について2回に分けて解説してきました。
まだまだ細かいところまで解説しきれていない部分もありますが、概要としては以上となっております。

退職給付会計は制度、状況、さらに個別財務諸表、連結財務諸表でも会計処理が異なってきます。
ご自身の会社で会計処理を行う場合には、前提となる部分(制度、条件、基準)を確かめるところからスタートとなります。

ご質問は、コメント欄、質問箱(https://peing.net/ja/kaikei_sodan)で受け付けていますのでよろしくお願いします!

ではでは!

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