前回までのIPOに関する記事において、以下の事項を解説してきました。
① IPOのメリットとデメリット ② 市場の再編と上場審査基準 ③ 資本政策の目的と流れ
IPOを実施することでの会社における一番の変化は何でしょうか?
それは、プライベートカンパニーからパブリックカンパニーとなることです。
非上場会社は、所有者(株主)と経営者が同じであり、経営者も自分の会社という考えていることが多いでしょう。しかし、IPO実施後は、会社は経営者のものではなく、多様な株主のものという扱いになります。
IPO実施後であっても、元々のオーナー(創業者等)が一番の大株主のままであるケースも珍しくありません。そのため、本来はパブリックカンパニーであるにも関わらず、一番の大株主だからという意識のもと、プライベートカンパニーからパブリックカンパニーへという、この急な変化に対応できず、IPOを行っても株主の存在を軽視した事件が起こる傾向にあります。
そのためオーナー以外の株主価値を毀損させないように会社の企業活動を律する枠組みのことをコーポレート・ガバナンス(企業統治)といい、東京証券取引所が、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものをコーポレートガバナンス・コードと言います。
コーポレートガバナンス・コードとは?
あまり馴染みのない言葉かもしれませんが、「コーポレートガバナンス・コード」と「コーポレートガバナンス」の違いを把握しておきましょう。
・コーポレートガバナンス・コード 上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)においてガイドラインとして参照すべき原則・指針のこと。
・コーポレートガバナンス 「会社は経営者のものではなく、資本を投下している株主のもの」という考え方のもと、企業経営を監視する仕組みのことです。会社側は企業価値の向上に努め、株主に対して最大限の利益の還元を目的とすべきという考え方が根本にあります。 具体的な取り組みとしては、取締役と執行役の分離、社外取締役の設置、社内ルールの明確化などが挙げられます。会社側と株主との関係や、会社の経営監視がうまくいっている状態を「コーポレートガバナンスが保たれている」と表現します。
コーポレートガバナンス・コードは、
東京証券取引所が、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられ、2015年6月に策定し、適用開始されたものとなっています。
コーポレートガバナンス・コードの概要
コーポレートガバナンス・コードは、原則のみを定め、細部はそれぞれの企業に任せるプリンシプルベース・アプローチ(原則主義)と全ての原則に対する遵守義務はなく、なぜ遵守しないかを説明すればよいというコンプライアンス・オア・エクスプレインの手法を採用しています。
・プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)の採用 ・コンプライアンス・オア・エクスプレイン
■ 原則を実施しない理由の説明
原則を実施しない理由の説明は、当該原則に関する会社としての考え方や今後の方針等を踏まえ、具体的に記載する必要があります。
各原則を実施しない理由の説明は、次の3つの場合に応じて以下の内容を記載することが考えられます。
① 具体的な実施予定がある場合 実施を予定する取組の具体的内容、実施時期等 ② 実施について検討中の場合 検討に関するスケジュールや考慮要素、検討の方向性等 ③ 実施しないことを決定した場合 実施しないこととした理由、代替手段を講じている場合はその内容等
■ コーポレートガバナンス・コードの構成
コーポレートガバナンス・コードは、5つの基本原則と31の原則、47の補充原則、総数83もの原則によって構成されています。
5つの基本原則は以下の通りとなっています。
もっと詳細な原則、補充原則を確認したい方はこちらをご参照ください。
(日本取引所グループHP、コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)より)
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf
コーポレート・ガバナンスに関する報告書
新規上場申請者は、以下の事項を記載した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」を提出しなければなりません。
⑴ コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成、企業属性その他の基本情報(注1) ⑵ 経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況 ⑶ 株主その他の利害関係者に関する施策の実施状況 ⑷ 内部統制システム等に関する事項 ⑸ その他
(注1)コーポレートガバナンス・コードの各原則のうち、実施しないものがある場合には、当該原則を実施しない理由を記載する必要があります。市場区分に応じた対象範囲は以下のとおりです。
改訂のポイント
コーポレートガバナンス・コードは2021年6月に改訂がされました。その改訂のポイントについての概要を記載します。
■ 取締役会の機能発揮
・プライム市場上場会社において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)
・経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識、経験、能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
・他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任
・指名委員会、報酬委員会の設置(プライム市場上場会社は、独立社外取締役を委員会の過半数選任)
■ 企業の中核人材における多様性の確保
・管理職における多様性の確保(女性、外国人、中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標、その状況の開示
・多様性の確保に向けた人材育成方針、社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表
■ サステナビリティを巡る課題への取組み
・サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示
・プライム市場上場会社において、TCFD又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実
■ 上記以外の主な課題
・上場「子会社」において、独立社外取締役をプライム市場上場会社においては過半数/それ以外の市場の上場会社においては3分の1以上選任、又は利益相反管理のための委員会の設置
・プライム市場上場会社において、議決権電子行使プラットフォーム利用と英文開示の促進
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、コーポレートガバナンス・コードについて解説を行いました。
・コーポレート・ガバナンス(企業統治)とは、株主価値を毀損させないように会社の企業活動を律する枠組みのこと
・コーポレートガバナンス・コードとは、東京証券取引所が、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたもの
・コーポレートガバナンス・コードは、原則のみを定め、細部はそれぞれの企業に任せるプリンシプルベース・アプローチ(原則主義)と全ての原則に対する遵守義務はなく、なぜ遵守しないかを説明すればよいというコンプライアンス・オア・エクスプレインの手法を採用している
・コーポレートガバナンス・コードは、5つの基本原則と31の原則、47の補充原則、総数83もの原則によって構成されている。
個別のご質問については質問箱(https://peing.net/ja/kaikei_sodan)までよろしくお願いします!
ではでは。