みなさん、こんにちは。今回はIFRSによる固定資産の会計処理についてわかりやすく解説をしていこうと思います。
IFRSと日本基準では会計処理の方法が異なる部分(これを基準差、GAAP差といったりします)がありますが、固定資産の処理にもいくつかの基準差があります。
「日本基準では認められていたのにIFRSでは認められない!」といった処理もありますので、IFRSを理解したいという方はぜひチェックしてみて下さい。
IFRS16リースについては前回記事で解説を行なっていますので、興味のある方はこちらもどうぞ。
IAS16「有形固定資産」の適用範囲
IFRSではIAS第16号「有形固定資産」が有形固定資産に関する基準となっており、以下の除く有形固定資産の会計処理に適用されます。
①IFRS5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」に準拠して売却目的保有資産に区分された有形固定資産 ②農業活動に関連する生物資産 ③探査および評価資産の認識及び測定 ④鉱業権並びに石油、天然ガスおよびこれらに類似する再生可能な天然資源
IFRS第5号では、売却目的保有に分類された非流動資産を「売却目的保有資産」へ振替えることを要求しています。
そのため、IFRS適用会社の財務諸表では日本基準では見ることのない「売却目的保有資産」勘定が計上されていることがあります。
IFRSを適用するにあたっては大きな基準差となりますので留意が必要です。
続いてIFRSにおける有形固定資産の取得価額について確認しましょう。
IAS第16号では、有形固定資産の取得に応じて以下の通り当初認識額及び測定を定めています。
購入の際に付随費用を取得価額に含める考え方は日本基準と同様です。
また、日常的な保守の原価は発生に応じて費用処理されますが、取替えのためのコストは資産に計上することが定められています。
有形固定資産の事後測定
IAS第16号では、有形固定資産の事後測定の方法として、①原価モデルと②再評価モデルのいずれかを会計方針として選択し、有形固定資産における種類の全てに適用するものとしています。
特に、日本基準では再評価モデルの考え方は馴染みのないものと思います。
①原価モデル
当初認識後、取得原価から、減価償却累計額及び減損損失累計額を控除して計上します。
②再評価モデル
当初認識後、公正価値が信頼性をもって測定できる有形固定資産は、再評価日における公正価値から、その後の減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した評価額で計上します。
ある有形固定資産が再評価される場合には、当該資産の属する有形固定資産の全てについて再評価する必要があります。
また、公正価値は、鑑定人の行う評価により決定された市場価値により評価されます。
再評価モデルを適用した場合の、再評価差額の取扱いは以下のようになります。
評価差益と評価差損となる場合で取扱いが異なりますので、処理を誤らないように注意が必要です。
IFRSにおける減価償却
続いてIFRSにおける有形固定資産の減価償却について確認していきます。
①減価償却の単位
IFRSでは、有形固定資産の重要な構成部分ごとに減価償却を行いますが、同じ耐用年数と減価償却方法を有している構成部分については、減価償却費を算定する際にグループ化することができると定められています。
②減価償却の方法
IAS第16号において、使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益が企業によって費消されると予想されるパターンで反映するものでなければならないとされています。
従って、少なくとも各期末に減価償却方法の見直しが求められます。
減価償却は、資産の償却可能価額を規則的に配分するため、以下の一定の方法を用いることに留意が必要です。
・定額法
・定率法
・生産高比例法
日本基準では建物・建物付属設備については定額法、そのほかの有形固定資産(リース資産や土地を除く)については定率法を採用する実務が一般的となっていますが、IFRSではあくまでも経済的便益の費消パターンを反映する方法が求められます。
従って、日本基準で定率法を採用している場合でも、IFRSでは定額法で処理することが妥当と判断されるケースがあります。
例えば、毎年一定数量の製品を製造することができる機械であれば、定額法での償却による方がIFRSの考え方に即するものであると考えられます。
③耐用年数
IAS第16号においては、耐用年数を以下のいずれかとすることが定められています。
・企業により、資産が使用可能と見込まれる期間
・企業により、資産から得られると予想される生産高またはこれに類似する単位数
また、IAS第16号56項では、資産の将来の経済的便益の減少は、使用を通じた費消の他、技術的または経済的陳腐化や物理的な自然減耗などの要因を考慮することが求められています。
さらに、耐用年数は少なくとも各期末に見直すことが必要です。
無形固定資産の会計処理
続いてIFRSにおける無形固定資産の会計処理について解説していきます。
IFRSではIAS第38号「無形固定資産」にて無形固定資産の会計処理が定められています。
IAS第38号では無形資産を以下のように定義しています。
無形資産 無形資産とは、物質的実態のない識別可能な非貨幣性資産のことをいいます。 無形資産は、のれんと区別するために識別可能であることを要求しており、以下のいずれかの場合に識別可能であると判断されます。 ①分離可能である場合 企業から分離または分割でき、かつ、企業にそうする意図があるかどうかに関係なく、個別にまたは関連する契約ごとに、識別可能な資産又は負債と一緒に売却、譲渡、ライセンス、賃借または交換ができること ②契約またはその他の法的権利から生じている場合
無形固定資産の当初認識にあたっては、以下の認識基準を満たす場合に資産として認識することが可能となります。
①関連する将来の経済的便益が、企業に流入する可能性が高いこと、かつ、
②原価が、信頼性をもって測定できること
また、IAS第38号48項では、自己創設のれんを資産として認識してはならないことが定められています。
これは、自己創設のれんが上記の信頼性をもって原価で測定できるような識別可能な資産ではないとの考えによるものです。
無形固定資産の償却については有形固定資産と同様に、償却可能価額を規則的に配分することが求められていますが、以下の点でIAS第16号とは異なっています。
(1)耐用年数が確定しない無形固定資産は償却しない
IAS第38号88項では、無形固定資産の耐用年数が確定できるか確定できないか判定するものとしています。
無形固定資産が、企業に対して正味のキャッシュインフローをもたらすと期待される期間につき、予見可能な限度がない場合には耐用年数を確定できないとみまします。
この場合、IAS第38号107項にて耐用年数を確定できない無形資産を償却しないとしています。
(2)償却方法
無形固定資産の償却にあたり、将来の経済的便益が企業によって費消されると予想されるパターンを信頼性を持って決定できない場合には、定額法を採用することがIAS第38号97項にて要求されています。
日本基準では無形固定資産は定額法にて償却することが一般的ですが、経済的便益の費消パターンを信頼性を持って決定できるのであればその他の償却方法を採用する余地があると考えられます。
IFRSではのれんは償却しない
IFRSでは、のれんは企業結合で取得した他の資産から生じる将来の経済的便益を表す資産をいいますが、のれんについては償却は行わず、毎期減損テストを行うことが要求されています。
日本基準では、のれんは20年以内の一定期間にわたって定額で償却する処理が定められていますが、この点はIFRSと大きく処理が異なります。
のれんの減損を行う処理は日本基準でもIFRSでも同様ですが、減損が不要と判断されれば、IFRSではのれんを当初の簿価のままBSに計上し続けることが出来ます。
2004年に以前はIFRSでものれんを償却していましたが、この点については議論が続いており、IASBより公表された討議資料「企業結合 – 開示、のれん及び減損」では、のれんの償却は再導入しないことが暫定的な見解となっています。
将来的にはのれんの償却が再導入される可能性もありますので、今後の動向に注目すべき論点といえますね。
まとめ
如何でしたでしょうか。
IFRSにおける固定資産の会計処理は、日本基準と異なる考え方を行う場合もあり、特に償却方法についてはIFRSの考え方を十分に理解した上で適切な方法を選択することが必要となってきます。
以下、今回の記事のポイントまとめです。
・IFRSでは有形固定資産の事後評価モデルの考え方として①原価モデルと②再評価モデルの2つの考え方がある
・有形固定資産の再評価を実施した場合、差益と差損の場合で評価差額の会計処理は異なる
・日本基準で定率法を採用した場合でも、IFRSでは定額法による償却が望ましい場合がある
・IFRSでは耐用年数が確定しない無形固定資産は償却しない
・IFRSではのれんは償却しない
次回はIFRSにおける固定資産減損について解説をする予定です。
解説した内容に不明点があればいつでもお問い合わせください。
個別のご質問については質問箱(https://peing.net/ja/kaikei_sodan)までよろしくお願いします!
それでは、さようなら。