今回も企業価値評価について解説していきます。前回の記事で紹介した企業価値の算定方法である、①マーケット・アプローチ、②インカム・アプローチの主な算定方法について詳細をわかりやすく紹介していこうと思います。
それぞれのアプローチの考え方については前回記事で解説をしておりますので、企業価値評価の基本を確認したいという方はこちらも参考にしてみて下さい。
マーケット・アプローチ① 株式市価法
まずはマーケット・アプローチによる企業価値の算定方法についてです。
マーケット・アプローチの主な算定方法には①株式市価法と②株価倍率法があります。
株式市価法による算定方法は以下の通りです。
株式市価法 株式市価法とは、評価対象企業がその株式を上場している場合に、取引市場の一定期間における平均値などをもって、1株あたりの株主資本価値とする評価方法です。
株式市価法で採用される株価の算定期間は、直近の株価のほか、株価の1ヶ月平均、3ヶ月平均、6ヶ月平均などが用いられ、その最大値と最小値の範囲で評価の幅を設定します。
直近日から6ヶ月平均までの株価を用いて算定する場合を具体的な数値を用いて解説すると以下のようになります。
直近日 | 1,500円 |
1ヶ月平均値 | 1,480円 |
3ヶ月平均値 | 1,410円 |
6ヶ月平均値 | 1,450円 |
評価レンジ | 1,410円〜1,500円 |
直近日から6ヶ月平均値の中で最小値と最大値を求め、その間が評価レンジとなります。
なお、株価推移の中に異常値が含まれている場合には当該期間の取り扱いについて検討する必要があります。
競合他社を買収するとプレスリリースを行い、一時的に株価が上昇した場合、この時の株価は一過性のものに過ぎず、企業価値の算定にあたっては当該影響を取り除くべきだと判断できる場合があります。この場合には、株価が高騰した期間を算定期間から除外することが望ましいと考えられます。
マーケット・アプローチ② 株価倍率法
続いて、株価倍率法についてです。
株価倍率法 株価倍率法とは、評価対象企業と類似する上場企業の株式時価総額を、利益などの財務数値で除して株価倍率を算定し、その株価倍率を評価対象企業の財務数値に乗じて企業価値を算定する方法です。
上述の株式市価法と同様に、上場企業にしか適用はできないものの、比較的客観性の高い評価方法と言えます。
実際の数値を用いて株価倍率法の算定の流れを解説すると以下のようになります。
上記では当期純利益を株価倍率の算定に用いましたが、この倍率のことをPER(Price Earnings Ratio)と呼びます。
この他に、経常利益や簿価純資産額を利用した倍率もあります。
経常利益倍率=株式時価総額÷経常利益
PBR(Price Book Ratio)=株式時価総額÷簿価純資産額
また、実際に用いられるケースは少ないものの、財務数値以外の指標を用いて株価倍率を算定する場合もあります。対象企業に関係の深い指標を用いられることが多いようです。
財務諸表以外の指標が用いられる例)
■ケーブルテレビ会社:事業価値÷加入者数
■コンビニエンスストア:事業価値÷店舗数
■携帯キャリア:事業価値÷契約者数
株価倍率法では類似企業の選定が重要となり、類似企業の選定が妥当性であれば算定結果もより信頼できるものとなります。
業種以外にも規模や製品構成、利益率、成長率などを総合的に検討して類似性の高い企業を選定することが求められるといえます。
インカム・アプローチ DCF法
次はインカム・アプローチによる算定方法を解説してきます。
インカム・アプローチでは主にDCF法による評価方法が用いられます。
DCF法 DCF法は、事業を行うことで生み出される分配可能な将来キャッシュ・フローを、株主資本と負債の加重平均資本コストで現在価値に割引くことにより事業価値を算定する方法です。 算定した事業価値に非事業用資産を加算し、有利子負債を減算して株主資本価値を算定します。
加重平均資本コストはWACC(Weighted Average Cost of Capital)とも呼ばれます。
DCFによる事業価値の算定は以下の3ステップにより行われます。
- FCF(フリーキャッシュフローの算定)
- 残存価値の算定
- 割引率(WACC)の算定
- FCF及び残存価値の現在価値の算定
- 非事業用資産の加算、有利子負債の減算
FCFと残存価値を算定したのち、算定した割引で割り返して事業価値の現在価値を決定します。
各ステップの具体的な算定手順は以下となります。
- FCFの算定方法
FCFは以下の算定式によって算出します。
FCF=EBIT×(1−法人税率)+減価償却費−設備投資額+運転資本増減額
EBIT(Earnings Before Interest and Taxes)とは、金利税金差引前利益のことで、営業利益に営業外損益等を加減算して算出します。
EBITに(1−税率)を掛けたものをEBIAT(Earning Before Interest After Taxes)と呼び、FCFの算出にあたってはEBIATに現金収支を伴わない減価償却費、現金支出を伴う設備投資額を調整する必要があります。
また、計画期間の各期において増減する運転資本の増減もEBIATの調整項目となり、以下のように調整します。
運転資本が増加する場合:EBIATから減算 運転資本が減少する場合:EBIATに加算
2. 残存価値の算定方法
残存価値とは計画終了時点における評価対象企業の事業価値のことです。
残存価値は以下の算式により算定します。
残存価値=継続可能FCF×(1−継続成長率)÷(割引率−継続成長率)
継続可能FCFとは事業計画最終年度のFCFに一定の成長率を乗じて算定します。
例えば、DCFに利用する事業計画最終年度の2030年度のFCFが10百万円、成長率を0%、割引率を5%とした場合の残存価値は以下となります。
●10百万円(継続可能FCF)×1÷5%=200百万円
3. 割引率(WACC)の算定
WACCは、以下の算式により算定することができます。
WACC=株主資本比率×株主資本コスト+負債比率×負債コスト×(1-実効税率)
株主資本コスト10%、負債コスト2%、実効税率30%、株主資本比率70%、負債比率30%の企業の場合、WACCを計算すると以下となります。
●WACC=70% (株主資本比率)×10%(株主資本コスト)+30%(負債比率)×2%(負債コスト)×(1-30%)=7.42%
4. FCF及び残存価値の現在価値の算定
1.で算定したFCFと2.で算定した残存価値を3.で算定した割引率を用いて現在価値に割り戻していきます。この現在価値合計が事業価値になります。
現在価値の算定は以下のイメージ図の通りです。
5. 非事業用資産の加算、有利子負債の減算
最後に、4.で算定した事業価値に非事業用資産を加算し、有利子負債を減算すれば評価対象企業の株主資本価値を算定することができます。
仮に非事業用資産20百万円、有利子負債40百万円を有する企業であったとすると、4.で算出した事業価値の191.77百万円にこれらを加減算して、以下のように株主資本価値が求められます。
●191.77百万円(事業価値)+20百万円(非事業用資産)−40百万円(有利子負債)=171.77百万円
まとめ
如何でしたでしょうか。
今回は企業価値評価の算定方法のうち、株式市価法、株価倍率法、DCF法を紹介しましたが計算方法はまだ他にもあります。
その他の計算方法については別記事で解説していこうと思います!
DCF法は非上場企業であっても採用可能な方法なので、実務においてもスタンダードな計算方法ですが、事業計画値を利用するため、客観性ある企業価値を算定するには精度の高い事業計画を作成することが重要といえます。
解説した内容に不明点があればいつでもお問い合わせください。
個別のご質問については質問箱(https://peing.net/ja/kaikei_sodan)までよろしくお願いします!
それでは、さようなら。