相続税は、個人が被相続人(亡くなった人のこと)から相続などによって財産を取得した場合に、その取得した財産に課される税金です。少子高齢化の現代にとって、相続する人、相続させる人双方にとってとても重要な税金となっています。
今回は、相続税の計算手順についての概要を解説していきます。
前回の記事についても是非チェックしてみてください。
相続税の計算手順
相続税法は、相続又は遺贈により財産を取得した者に対して課税するという取得者課税の方式(遺産取得課税方式)を採っています。
財産を取得した者が、納付する相続税額を計算するためには、次のように3つの段階の計算が必要となります。
① 各人の課税価格を計算(遺産取得課税方式で計算)
② 相続税の総額を計算(相続税の総額を計算)
③ 各人の算出税額を計算(各人の算出税額を計算)
① 各人の課税価格を計算(遺産取得課税方式で計算)
相続又は遺贈により財産を取得した者に係る課税価格を個々に計算し、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者の相続税の課税価格の合計額を計算します。
② 相続税の総額を計算(相続税の総額を計算)
課税価格の合計額から遺産に係る基礎控除額を控除した残額を基に、相続税の総額を計算し、その相続税の総額を各人が取得した財産の額(割合)に応じ配分して各人の算出税額を計算します。
③ 各人の算出税額を計算(各人の算出税額を計算)
各人の算出相続税額のうち、一定の者に係る算出相続税額には、その者の算出相続税額の20%相当額を加算し、各種の税額控除を控除して各人の納付税額を計算します。
各人の課税価格の計算
■ 課税価格の合計額
相続財産
(+)みなし相続財産
(ー)非課税財産
(ー)債務控除
(+)生前贈与加算財産
=各人の課税価格
・相続財産
相続税法では、被相続人に帰属していた財産のうち、金銭に見積もることができる経済的価値のある者すべてをいうこととし、積極財産のみを「本来の相続財産」として課税の対象としています。
具体例として以下のものが挙げられます。
・預貯金、現金
・株式
・自動車
・土地、家屋、借地権
・貴金属、宝石、書画、骨董 など
みなし相続財産
実質的に相続又は遺贈により取得した財産と同様の経済的価値を持つものとなります。相続税法では、課税の公平を図る見地から、このような財産を相続又は遺贈により取得したものとみなして、相続税の課税対象としています。具体例として以下のものが挙げられます。
・生命保険金等
・退職手当金等
・生命保険契約に関する権利
・定期金に関する権利 など
非課税財産
相続税法では、相続又は遺贈により取得した財産(みなし相続財産を含む)であっても公益性や社会政策的見地あるいは国民感情の面から、相続税の非課税対象としているものがあります。
具体例として以下のものが挙げられます。
・墓所、霊びょう、祭具及びこれらに準ずるもの
・公益事業を行う者が取得した公益事業用財産
・心身障害者共済制度に基づく給付金の受給権
・相続人が受け取った生命保険金などのうち、一定の金額
・相続人が受け取った退職手当金などのうち、一定の金額 など
債務控除
相続税の課税価格の計算上、相続人又は包括受遣者が負担した債務の金額は、取得財産価額から控除されます。すなわち、相続税では権利(積極財産)の価額から義務(消極財産)の金額を控除し、その残額を取得した財産の価額とするという正味財産課税の方式を採っています。
生前贈与加算財産
相続税が超過累進税率を用いることを利用することにより、相続の開始が近いことを知った相続人等が被相続人の生前に贈与を受けることで相続税の負担を不当に軽減することも否定できないことから、
相続開始直前における被相続人の贈与財産は、むしろ相続財産の一部として税負担を清算した方が合理的であるという考え方に基づき、相続開始前3年以内の贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算することとしています。
相続税の総額の計算
相続税の総額とは、被相続人から遺産を取得したすべての者の相続税額の合計をいいます。
その計算は、実際の遺産の分割状況とは無関係に、被相続人の遺産を法定相続人が取得したものと仮定して行われます。
相続税の総額は、「課税価格の合計額」から「遺産に係る基礎控除額」を控除した金額を、法定相続人の数に応じた相続人が民法の規定による相続分及び代襲相続分に応じて取得したものとした場合の各取得金額に、相続税の超過累進税率を適用して算出した金額を合計して求めます。
相続税の総額の計算
(1)各人の課税価格
(2)各人の課税価格の合計額
(1)の合計
(3)遺産に係る基礎控除額
(4)課税遺産総額
(2)ー(3)
(5)法定相続人の法定相続分及び代襲相続分に応ずる各取得金額
(4)× 法定相続人の法定相続分及び代襲相続分
(6)相続税の総額の基となる税額
(5)×税率
(7)相続税の総額
■ 遺産に係る基礎控除
各相続人等の課税価格の合計額(被相続人の遺産総額から債務と葬式費用の額を控除した残額)から控除される金額です。課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額以下であれば、相続税は課税されません。
遺産に係る基礎控除 = 3,000万 + 600万 × 法定相続人の数
■ 相続税の税率と速算表
・税率
取得金額 | 税率 |
10,000千円以下の金額の部分 | 10% |
10,000千円超 30,000千円以下の金額の部分 | 15% |
30,000千円超 50,000千円以下の金額の部分 | 20% |
50,000千円超 100,000千円以下の金額の部分 | 30% |
100,000千円超 200,000千円以下の金額の部分 | 40% |
200,000千円超 300,000千円以下の金額の部分 | 45% |
300,000千円超 600,000千円以下の金額の部分 | 50% |
600,000千円超 の金額の部分 | 55% |
・速算表
相続人の取得金額 | 税率 | 控除額 | 相続人の取得金額 | 税率 | 控除額 | |
10,000千円以下 | 10% | ー | 200,000千円以下 | 40% | 17,000千円 | |
30,000千円以下 | 15% | 500千円 | 300,000千円以下 | 45% | 27,000千円 | |
50,000千円以下 | 20% | 2,000千円 | 600,000千円以下 | 50% | 42,000千円 | |
100,000千円以下 | 30% | 7,000千円 | 600,000千円超 | 55% | 72,000千円 |
各人の算出税額の計算
各人の算出相続税額のうち、一定の者に係る算出相続税額には、その者の算出相続税額の20%相当額を加算し、財産取得者の生活保護、二重課税の排除等のため、一定の要件のもとに、6種類の税額控除額を控除して各人の納付税額を計算します。
算出相続税額
(+)相続税額の加算
(ー)贈与税額控除
(ー)配偶者の税額軽減額
(ー)その他控除額
=納付すべき税額
■ 相続税額の加算額の計算
相続又は遺贈により財産を取得した者が、被相続人の1親等の血族及び配偶者以外の者である場合のその者の相続税額は、その者の算出税額に20%相当額を加算した額としている。
相続税額の加算についての根拠
・被相続人と親等の遠い人は、配偶者や子が財産を相続した場合に比して多分に偶然生が高く、その財産が生活の元手となることが予定されていなかったため、担税力を十分に有している
・孫が相続又は遺贈を受ける場合には、相続税の課税を1回免れる結果となる
・相続税額の加算額の計算
算出相続税額 × 20/100
■ 贈与税額控除
相続又は遺贈により財産を取得した者が、相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けていた財産の価額は、その者の相続税の課税価格に加算して相続税額を計算することとされてます。
相続税と贈与税の二重課税を避けるために、その者の算出税額からその贈与税額を控除するものとなります。
■ 配偶者の税額軽減額
被相続人の配偶者の生活保障及び配偶者の財産形成に対する貢献度を考慮して、以下を根拠として設けられたものです。
・被相続人の相続開始から配偶者の相続開始までの期間が一般的に短いこと
・被相続人の遺産の形成・維持に対する配偶者の貢献に対する配慮
・長年共同生活を営んできた配偶者の座に対する配慮
軽減される相続税額の計算
①と②のいずれか少ない金額
① 贈与税額(暦年課税)控除後の配偶者の算出税額
② 相続税の総額 × aとbのいずれか少ない金額/課税価格の合計
a. 課税価格の合計額 × 配偶者の法定相続分と160,000千円の多い方
b.配偶者の課税価格(千円未満切り捨て)(遺産分割により配偶者が実際に取得した額)
■ その他控除額
上記の他、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除など納付すべき税額から控除できる控除があります。
まとめ
いかがだったでしょうか。今回は、相続税の計算手順について解説しました。
相続税法の計算方法はかなり特殊であり、また、個々の事象によって計算税額が大きく変わりますので、個々の具体的な事象については専門家への相談をお勧めします。
個別のご質問についてはコメント欄、質問箱(https://peing.net/ja/kaikei_sodan)までよろしくお願いします!
ではでは!