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【わかりやすく!】研究開発費及びソフトウェアの会計処理を解説②〜受注制作のソフトウェアは要注意

会計

今回はソフトウェアの会計処理のうち、ITベンダーがお客さんからオーダーされて制作する、いわゆる「受注制作」の場合のソフトウェアの処理がテーマです。

受注制作のソフトウェアは請負工事の会計処理に準じて工事進行基準による売上・売上原価の計上が行われて来ましたが、2021年4月より適用されている新収益認識基準により、工事進行基準は廃止されています。

進捗に応じて売上を計上するにあたり、従来の工事進行基準ではなく、新収益認識基準に従った判断が必要となるため、この点について詳しく解説していきます。

ソフトウェアの会計処理は、①市場販売、②自社利用、③受注制作の3つに区分されて規定されていますので、ソフトウェア解説編は今回で完結です。

市場販売目的、自社利用目的のソフトウェアの会計処理については前回記事で解説をしているので、こちらもどうぞ。

受注制作のソフトウェアの処理は請負工事の会計処理に準じる

受注制作のソフトウェアとは、特定のユーザーから個別に受託して制作するソフトウェアのことです。

オーダーメイドで制作するソフトウェアがこれに該当し、マスターを複製して汎用品を販売するものは「市場販売目的」のソフトウェアとなります。

受注制作のソフトウェアは、請負工事の会計処理に準じて処理することが求められます。

請負工事の会計基準とは、ソフトウェア制作の進捗度に応じて仕掛品、売上、売上原価の計上を行なっていく方法です。

冒頭でも説明した通り、2021年4月より適用されている「収益認識に関する会計基準」の登場に伴い、「工事契約に関する会計基準」及び「工事契約に関する会計基準の適用指針」は廃止されました。

受注制作のソフトウェアの会計処理に当たっては、工事契約の会計基準ではなく、収益認識基準を参考にする必要があるので注意しましょう。

収益認識基準ではまず履行義務の識別を行う

収益認識に関する会計基準では、以下の5つのステップで収益認識の会計処理を行います。

ステップ1 顧客との契約を識別する
ステップ2 契約における履行義務を識別する
ステップ3 取引価格を算定する
ステップ4 取引価格を履行義務に配分する
ステップ5 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する

詳細は過去の記事で解説しているので、合わせて確認してもらえればと思います。

ステップ5の手続きにもあるように、履行義務が「一時点で充足するものか」、「一定期間にわたって充足するものか」のいずれかを判断する必要があるのですが、受注制作のソフトウェアの場合、履行義務が一定期間にわたって充足されます。

収益認識会計基準では、一定の要件を満たすことで「一定期間にわたって履行義務が充足する」と判断されますが、オーダーメイドで制作するソフトウェアであれば、以下の要件を満たすと考えられるためです。

収益認識会計基準38項(3)

①企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること

オーダーメイドのソフトウェアの制作が進んでいけば、他の用途には転用することが出来なくなりますからね。

履行義務の充足に応じた売上の計上を行う

受注制作のソフトウェアは一定期間にわたり履行義務が充足されますが、この場合は履行義務の進捗度に応じた売上の計上を行なっていきます。

全体の進捗度に応じて、各期末に全体の〇〇%を売上として計上していく、というイメージになりますが、進捗度の算定方法には以下の2種類があります。

アウトプット法:移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積るものであり、アウトプット法に使用される指標には、現在までに履行を完了した部分の調査、達成した成果の評価、達成したマイルストーン、経過期間、生産単位数、引渡単位数等がある。

インプット法:履行義務の充足に使用されたインプットが契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット合計に占める割合に基づき、収益を認識するものである。インプット法に使用される指標には、消費した資源、発生した労働時間、発生したコスト、経過期間、機械使用時間等がある。

アウトプット法は、お客さんにどれだけの成果を提供したか、インプット法は自社でどれだけのコストを消費したか、という観点での測定方法ということですね。

また、進捗度を合理的に見積もることが出来ない場合には原価回収基準による売上の計上が認められています。この原価回収基準の考え方は、従来の工事契約に関する会計基準には無かった考え方ですのでしっかり覚えておきましょう!

・原価回収基準:履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法

要は、発生した費用と同額を売上高として計上する方法です。

工事完成基準による計上方法は無くなった?

廃止された工事契約に関する会計基準には、「工事完成基準」と「工事進行基準」の2つの基準による売上計上が行われていました。そのうち、「工事完成基準」は全ての工事が完成した時点で売上高を計上する(それまでに発生した費用は仕掛品勘定等を用いて棚卸資産に計上)処理方法でした。

収益認識基準においても、一定の場合には「工事完成基準」に類似した処理方法を受注制作のソフトウェアに適用することが認められています。

収益認識に関する会計基準の適用指針
95項 工事契約について、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができる。

96項 受注制作のソフトウェアについても、工事契約に準じて前項の定めを適用することができる。

制作期間がごく短い受注制作ソフトウェアであれば、進捗度に応じた売上の計上ではなく、完成時にまとめて売上を計上することが可能となっています。

履行義務の識別に関する留意点

収益認識基準では履行義務ごとに収益の認識時点などを判断していきます。

例えば、ベンダーがオーダーメイドのソフトウェア制作を受注し、要件定義、設計、開発、開発テストの各工程ごとに契約が締結されており、それぞれ代金の支払いが行われている場合があるとします。

この場合、各工程それぞれに履行義務を識別するのではなく、工程全体を単一の履行義務として判断する場合があります。

単一の履行義務とみなされた場合には契約の結合がされ、各工程で個別に売上を計上することは出来なくなります。

契約の結合の条件は以下となります。

(1)同一顧客(又は顧客の関連当事者)との間で複数の契約を締結した

(2)同時又はほぼ同時に複数の契約を締結した

(3)次の要件のどれかに該当
①契約が単一の目的を有するパッケージとして交渉されている

②1つの契約の対価金額が、他の契約の価格又は履行に左右される

③複数契約で約束した財又はサービスが、以下のいずれも満たせない場合は単一の履行義務である
a. 顧客が財又はサービスから単独で便益を享受できる
b. 財又はサービスの移転の約束が他の約束と区分識別できる

ソフトウェアの制作にあたり、細かく契約が分かれている場合でも、契約全体を単一の履行義務として識別する必要がないか?を必ず確認するようにしましょう。

まとめ

如何でしたでしょうか。

新収益認識基準の話もあり、少し複雑な考え方もあったと思いますが、ポイントをまとめると以下となります。

☑︎受注制作のソフトウェアは履行義務の進捗に応じて、アウトプット法もしくはインプット法による売上計上を行う

☑︎履行義務の進捗を合理的に見積れない場合には、原価回収基準(費用と同額の売上の計上)による売上計上を行う

☑︎制作期間がごく短い受注制作ソフトウェアであれば、進捗度に応じた売上の計上ではなく、完成時にまとめて売上を計上することが可能

不明点があればいつでもお問い合わせください。個別のご質問については、質問箱(https://peing.net/ja/kaikei_sodan)までよろしくお願いします!

それでは、さようなら。

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