税務上の「中小法人」と「大法人」では、税務上大きな違いがあります。
そもそも「中小法人」とはどのような会社のことを言うのでしょうか。
普通法人のうち各事業年度終了の時において資本金の額が1億円以下であるもの。 ただし、各事業年度終了の時において次に掲げる法人に該当するものは除外されます。 ・相互会社 ・大法人(次のイ〜ハの法人をいいます。)との間に当該大法人による完全支配関係がある普通法人 イ 資本金等の額又は出資金の額が5億円以上である法人 ロ 相互会社(外国相互会社を含みます。) ハ 受託法人 ・普通法人との間に完全支配関係がある全ての大法人が有する株式及び出資の全部を当該全ての大法人のうちいずれか一の法人が有するものとみなした場合において当該いずれか一の法人と当該普通法人との間に当該いずれか一の法人による完全支配関係があることとなるときの当該普通法人(②の法人を除きます。) ・投資法人 ・特定目的会社 ・受託時法人
中小法人に該当する場合の税務メリット
「中小法人」に該当する場合、以下の税務メリットを受けることができます。
・法人税の軽減税率 ・欠損金の繰越控除制度の特例 ・欠損金の繰戻還付 ・交際費等の損金不算入制度の特例 ・特定同族会社の留保金課税の適用除外 ・貸倒引当金の適用
受けられる税務メリットについて一つずつ解説をしていきます!
こちらの記事についても是非見てください!
法人税の軽減税率
法人税の税率について、「中小法人」と「中小法人以外の普通法人」では適用する税率が下記の通り異なります。
なお、税率15%が適用される場合は租税特別措置法によるものであり、現時点(2022年8月時点)で適用期限は令和4年度末までとされております。
中小法人と中小法人以外の法人では法人税率に8.2%もの差があり、中小法人の税務上のメリットは大きいものと言えます。
欠損金の繰越控除制度の特例
繰越欠損金の控除とは、過去に欠損金が生じた事業年度について、青色申告書である確定申告書を提出し、その後連続して確定申告書を提出している法人について、その事業年度に生じた欠損金額相当額を控除することができる制度です。
繰越控除される欠損金は、事業年度開始の日前10年(H30年3月末以前に開始する事業年度に生じた欠損金額については9年)以内に開始した事業年度において生じた欠損金であり、古いものから順番に控除されます。
ただし、「中小法人」と「中小法人以外の普通法人」では控除できる割合が異なります。
中小法人では、繰越控除前の所得に対し、全額欠損金を控除することができますが中小法人以外の法人では50%(H30年3末以前の欠損金については55%〜80%)が控除限度額となっています。
繰越欠損金の繰戻還付
繰越欠損金の繰戻還付とは、青色申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合に、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度に繰り戻して、法人税額の還付を請求できるという制度です。
つまり、当年度に欠損金(赤字)が生じた場合に、過去に支払いを行った税金についての還付を請求することができるというものです。
先に説明した欠損金の繰越控除と似ていますが、混乱しないようにしましょう。
・繰戻還付 本年が赤字だった場合、前年の黒字から本年の赤字を相殺し、相殺後の所得に対する税金を再計算して、差額を還付してもらうもの ・繰越控除 本年が赤字だった場合、翌年以降の黒字から本年の赤字を相殺し、翌年以降の所得から相殺して税金を計算するもの
繰戻還付は、資金繰りが厳しい会社など、すぐに税金の還付を受けたい会社にとっては非常にありがたい制度となっています。
しかし、繰戻還付は、以下の点に注意しましょう。
・還付対象は、国税のみ。住民税や事業税については、適用外となります。 ・還付請求は基本的に調査が伴います。 ・前年(一定の場合は前々年)も青色申告であることが条件となります。
交際費等の損金不算入制度の特例
中小法人には交際費等について損金算入できる範囲が広くなっています。
資本金1億円超(100億円未満)の大法人は、接待飲食費の50%以下までしか、交際費を損金算入できないのに対し、中小法人であれば、年800万円以下の金額までであれば損金算入することができます。
年800万円は、月換算しますと666,666円となります。
よほどの大きい会社でない限り、毎月60万円以上を交際費として使用することはないですよね。そのため中小法人では、交際費等を損金算入できるという大きいメリットとなっているのです。
では、どこまでが「交際費」となるのでしょうか。「交際費」の範囲について解説します。
「交際費」 交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する費用
以下の費用については交際費等から除かれるとされています。
(1) 専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用 (2) 飲食等のために要する費用(専らその法人の役員もしくは従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除く)で、その支出する金額を参加人数で頭割りした金額が5,000円以下の費用 (3) その他の費用 イ カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいその他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用 ロ 会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用 ハ 新聞、雑誌等の出版物または放送番組を編集するために行われる座談会その他記事の収集のために、または放送のために通常要する費用
つまり、従業員のみの慰安のために行われる催し物の費用、5,000円以上の社外との飲食費用、広告目的に使用される物品に係る費用、会議費等は「交際費」に該当しないとされています。
ここで間違いやすい点としては以下の点です。
・一部の社内の者のみで行われる飲み会などの費用
→会議として行われるものに係る費用で社会通念上妥当な金額の場合は「会議費」、会議に係るものでない場合の社内の者のみで行われる費用は金額に関わらず「交際費」
・社外の者が参加する飲み会等の費用で1人あたり5,000円以下の費用は「会議費」、5,000円超は「交際費」
「接待飲食費」とは、社外の者が参加する飲み会等の費用で1人あたり5,000円超の場合を指しています。
社内の者のみで行う飲み会等に金額基準はないので注意しましょう。
特定同族会社の留保金課税の適用除外
留保金課税とは、原則として資本金1億円超の「特定同族会社」に課せられるもので、会社の内部留保の利益金に対して追加課税される税金となっています。
中小法人の場合には、この留保金課税の適用除外とされています。
貸倒引当金の適用
貸倒引当金とは、会社が保有する債権に対し、実際にまだ貸倒が生じたわけではないものの、その可能性が高い場合などに一定額を「貸倒引当金」として、将来の損失に対してあらかじめ引当て計上ができるものです。
その貸倒引当金の計上が認められているのは「中小法人」のみとなっています。
まとめ
いかがだったでしょうか。今回は中小法人における税務上のメリットについて解説しました。
最近では、上場会社であっても減資を行うことにより中小法人となるケースも散見されます。
税務がこうだからと会社の方針を変えてしまうのでは本末転倒ではありますが、中小法人になることで受ける税務上メリットはとても大きいものであり、ある意味合理的な意思決定であるとも言えます。
会社の目指すべき姿、受けるメリット、デメリットを考慮した上で中小法人となるか大法人となるか決定していきましょう。
個別のご質問については質問箱(https://peing.net/ja/kaikei_sodan)までよろしくお願いします!